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| 巻 頭 言 |
日本の文化を語るときに、日本人の繊細さを理解する必要がある。その繊細さを理解するうえで、たとえば、世界の料理のなかで、日本料理ほど繊細なものはない。西欧の料理のなかでも、フランス料理をのぞけば繊細さに欠けるものが多い。
美食家が好むイタリア料理や中国料理にしても、量は多いのだが質の面で日本料理のような繊細さはない。スペイン料理、北欧のバイキング料理、そしてドイツ料理もそれぞれ特徴は見られるものの、繊細さという点で日本料理にはかなわない。
ましてや、イギリス料理やアメリカ料理などは、その言葉を聞いたこともない。アジアの韓国料理やタイ料理にしても、それぞれの特色はあるものの、いずれも大ざつぱである。
日本人は料理を目で食べ、頭で食べ、心で食べるといわれている。口や腹で食べるだけではない。一般的には、「日本人は料理を目で食べる」とよくいわれるが、見た目も美しくなければならない。だから、盛り付けやお皿も非常に重要な要素になってくる。
そのうえ、どれだけ新鮮な材料を使って、どのように工夫して料理を作っているのか、日本人はそれを頭のなかで想像しながら食べる。だから、料理人の心が伝わるものでなければ、日本人は満足しない。
また、日本人は心で食べるので、食べる人の気持ちを察し、心を込めて料理をしなければ、美味しく食べてもらえない。
話は飛ぶが、埼玉県岡部町の高砂食品では、ビヴァルディの「四季」を聞かせて「うどん」を作っている。また、名古屋市の敷島製パンでは、「パン」を焼き上げる前にイースト菌を72時間熟成させる際に、ベートーベンの「田園」を聞かせているという。さらに、福島県喜多方市の小原酒造では、もろみにモーツァルトの音楽を聞かせて「日本酒」を発酵させているそうだ。
クラシック音楽が「うどん」「パン」「日本酒」を作るのに、どれだけ効果があるのか素人にはわからないが、その心がけにはただただ敬服するばかりである。お客さまに心を込めて作った食品を美味しく優雅に食べてもらいたい、という作り手の心が何となく伝わってくる。
話はそれたが、日本の文化は、こうした日本の料理や食品に凝集されているような気がしてならない。筆者が外国人と接するとき、「日本の文化を知りたければ、日本料理を食べなさい」ということにしている。日本人の思いやり、心の美しさ、繊細さなど、日本文化の結晶が日本料理に包含されていると思うからである。
こうした食文化に代表されるように、日本人の思いやりや心の美しさ、すなわち、日本人のホスピタリティ・マインドは、世界中の人から受け入れられる日本人の強みといえるのかもしれない。
| 先人の教え |
英国を一人旅したことがある。特に目的もなく、自由気ままにロンドンから北上してスコットランドを周遊する旅に出かけた。やがてヨークの町にたどり着いた。夏の観光シーズンに初めて訪れた町でホテルを探すのに、これほど骨が折れるとは予想もしなかった。ホテルでなくともB・B(ベッド・アンド・ブレックファースト)でもよいから、とにかく泊れる場所を見つけようとした。重い荷物を持って三十分近くもヨークの街を探し回った。しかし、どこのホテルもB・Bも満員であった。やっとの思いで一軒のB・Bにたどり着いたが、そこも満員御礼で開室がないという。
しかし、B・Bの老夫婦は疲れ切った筆者の姿を見て、もしここでよければといって、食堂に簡易ベッドを運んで代用の寝室を用意してくれた。旅の疲れで疲労困ぱいした旅人にとっては、横になれる所であればどこでもよかった。B・Bの老夫婦は、もう夜も遅いのに精一杯の歓待をしてくれた。
その時のB・Bのホストたちの顔は慈悲深い神父と聖母マリアのように感じられた。その感激は今も忘れることはできない。疲れた旅人を歓待するということ、つまり、これが正真正銘のホスピタリティであることを肌で感じた。
| 一口メモ |
日本人旅行者が中国に行って閉口するのは、トイレである。たしかに中国ではドアや敷居のないトイレが当たり前で、地方に行くと穴を掘っただけというのもある。留学生たちは入りながら挨拶できるので、このトイレを「ニイハオトイレ(こんにちはトイレ)」と呼んでいる。
日本のトイレはウォシュレット、便座シート、消音器付きまである。日本のトイレが隠せるだけ隠す秘密の場所であるのに対して、中国のトイレはドアがあっても閉めない、いわゆる社交の場所なのである。トイレ事情ひとつをとっても、これだけ考え方が違うわけで、文化事情を無視しては相手の事情は語れない。
中国人には大陸的大らかさと東洋人的な気配りというのがあって、日本人には見られない精神的・文化的な生活原理が存在している。ホスピタリティというのは、「ところ変われば品も変わる」という言葉通りに、中身は千差万別。万国共通のホスピタリティ基準というものは存在しないようだ。
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